未登記家屋を相続したとき
未登記家屋とは建物を新築した際には表題登記をすることが一般的です。例えば、住宅ローンを利用する場合には、金融機関が抵当権を設定するために必ず表題登記・保存登記をするように段取りされます。
しかし、自己資金で小さな物置を建てたときなどは登記をしなくても実害が生じにくいため、この表題登記を忘れてしまうことがあります。
この物置のように、表題登記ができていない建物のことを未登記家屋をいいます。
感覚的にピンとこないことがあるのが、未登記だけど固定資産税は課せられている、という状態ではないでしょうか。
「固定資産税を納めてるのに未登記だったんですか?」「未登記なのに固定資産税はかかってるっておかしくないですか?」というご質問をよくいただきます。
これは、建物の登録については、①法務局が管理する登記記録と②市役所が管理する固定資産台帳の2つの台帳があるために生じる疑問なのだと思います。
①法務局に対しては申請をしなければ登記されることがないのですが、②市役所は自ら調査を行い、建物が実在していれば課税をするという取り扱いになっています。
そのため、未登記だけど固定資産税は課税されているという状態が生じるのです。
登記されている建物を相続したときには、被相続人から相続人へ名義変更の登記(いわゆる「相続登記」)を行います。
それでは、未登記家屋を相続したときにはどのような手続きをすることになるのでしょうか?
未登記家屋については、土地家屋調査士が建物表題を行います。
相続した未登記家屋を表題登記するときにはいくつかの注意点があります。
新築したばかりの建物であれば、床面積を計算するための図面などが揃っていますので、こういった資料を基に表題登記をすることができます。
しかし、相続された建物の場合、建築当時の資料が残っていないことがよくあります。資料がないと①寸法がわかりにくい、②所有権を証明しづらい、という2つの問題点があります。
①寸法については、測量機器を使って建物を実測するしかありません。しっかりした図面がない分、土地家屋調査士が行う現場での作業に手間がかかります。
②所有権を証明しづらい、についてですが、例えば、建物の建築確認を取っておられると、確認済証の施主の記載をもって誰が所有者であるのかを書面で証明することができます。また、固定資産税が課税されていると、固定資産台帳の所有者の記載をもって証明することもできます。
表題登記をするときには、こういった所有者・所有権を証明する書類を2点以上提出する必要があるのですが、実務上は1点(主に固定資産台帳)しか見当たらないことが多いです。
2点準備ができないときは、建物の状況を知る者2名から「この人が所有者で間違いありません」という所有権証明書を提出していただくことが一般的です。
②の続きになるのですが、被相続人が建物の所有者であることを証明したら、続いて被相続人から当該建物を相続したことを証明します。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍・除籍・原戸籍謄本、相続人の戸籍・印鑑証明書、遺産分割協議書などで証明することになります。
そのため、相続した未登記家屋を登記しようとするときには、遺産分割協議書に未登記家屋を誰が相続するのかも明記する必要があります。
未登記家屋には当然のことながら登記記録がありませんので、遺産分割協議書への記載を漏らしてしまうことがあります。未登記家屋が記載されていない遺産分割協議書では、相続人名義での表題登記をすることができませんので、記載漏れがないよう注意が必要です。
未登記家屋を相続された後、この建物を売却される場合や、敷地内の住宅を銀行借り入れをしてリフォームする予定があるときなどは、所有権保存登記も行うことが多いです。
これは、売却される場合には所有権保存登記をしておかないと、次の買主様へ名義変更ができないためです。同様に、リフォームにあたって銀行借り入れをされる場合、銀行が敷地内の土地建物すべてに担保を設定するのですが、担保設定も所有権保存登記が前提として必要になるためです。
未登記家屋を相続したものの取り壊す予定ということもあるでしょう。
建物を取り壊す予定であれば、せっかく表題登記や保存登記をしても、すぐに滅失登記といって登記記録を閉鎖する手続きをしなければなりません。
建物は登記をする義務があり、罰則もあるのですが、実際には義務違反を理由に罰則が適用される例は非常に稀です。個人的には罰則適用された事例を知りません。
そのため、解体が決まっているのであれば、未登記のままにしておくというのも選択肢の一つなのかもしれません。